宇多田ヒカル『ULTRA BLUE』

ULTRA BLUEアメリカへの「エキソドス」が失敗した後に出た日本語アルバム。4枚の日本語アルバムの中では、異質な存在である。今までのR&Bとは違って、ピコピコなエレクトロサウンドが多用された。歌詞も一段抽象になって、日常生活について語っているようだけど、時々テーマがぼやけている感じもする。

3枚目のアルバム『DEEP RIVER』はすでにこういう傾向があったが、まだはっきりしていなかった。宇多田さんの楽曲スタイルが変わった時期がおよそ結婚前後。結婚生活が彼女にどんな影響を与えたかが気になる。

歌詞をよく見ると、幻想や妄想に関する描写が多いことに気づいた。最初の曲も最後の曲も「誰かと何かができるなら」についての曲なので、もしかしてこれがアルバムのテーマかと思う。つまり、「現実の中の幻想」だ。01~03、05、08、13のアレンジはこのテーマに呼応しているように、近未来的で色鮮やかなサウンドに満ちている。それに対して、比較的早い時期にリリースされたシングルが暗く感じる。例えば、「誰かの願いが叶うころ」と「Be My Last」はアレンジがシンプルで、重苦しいボーカルが特徴。どちらもいい曲だけど、このアルバムの中では浮いている感じがする。今の明るいサウンドに転換したのは、昔の憂鬱を払うためじゃないかと思う。

今回のアルバムは、サウンドもテーマも少し近づきがたい気がするので、ヒットしなかったのも仕方ないかも。ただ、一体感が少し弱い気がして、イマイチだと思う曲(04、09、10)もある。今のスタイルを進化させて、より良い作品を出してほしい。

宇多田ヒカル『ULTRA BLUE』
01. This Is Love 02. Keep Tryin’ 03. BLUE 04. 日曜の朝 05. Making Love 06. 誰かの願いが叶うころ 07. COLORS 08. One Night Magic feat. Yamada Masashi 09. 海路 10. WINGS 11. Be My Last 12. Eclipse (Interlude) 13. Passion

2015.06.13追記:
このアルバムのテーマが結婚生活の失敗や浮気妄想かと思っていた。理由となったのは「Making Love」の歌詞:「新しいお部屋で君はもう making love」。もしかして相手の浮気を期待していた!?と思った。この曲が実に女性友人への応援ソングだという事実を知ると、彼女の単純と自分の意地悪さを知った。「This Is Love」の未来感が最初からずっと好きだけど、やはりアルバム全体のまとまりが良くなくて、単曲で聴くようになった。テーマが結婚生活と関係なくても、焦りや重苦しさが感じられる。

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